小多機の業務が「なんとなく重い」理由
小規模多機能型居宅介護(小多機)は、通い・訪問・泊まりという3つのサービスを組み合わせて提供できる、在宅介護の中で非常に自由度の高い仕組みです。
その自由度こそが強みである一方、現場の管理者を悩ませる側面でもあります。
利用者ごとにサービスの組み合わせが違う。今日は通いで来るはずが急遽訪問に変わる。泊まりの人数は直前までわからない。こうした変動の多さが、スタッフ間の情報共有を難しくし、業務の複雑さを生んでいます。
他のサービスと同じやり方では管理が追いつかないのに、専用のシステムを入れるほどではない。そのグレーゾーンで、多くの事業所が「なんとなく重い」業務を抱えたまま回している状態になっています。
この記事では、小多機の現場でよく見かける3つのムダと、すぐに手を打てる改善策を紹介します。
ムダ1:スケジュール管理が「ホワイトボード+紙」の二重入力になっている
小多機の事務所の壁には、たいていホワイトボードがあります。今日の通い人数、訪問の時間帯、泊まりの利用者名——それをホワイトボードに書いて、別途紙の利用者台帳にも転記して、場合によってはExcelにも入力している、という現場があります。
同じ情報を複数の場所に入力することで、何が起きるか。
転記ミスが起きる。 片方を直したのにもう片方を直し忘れる。ホワイトボードの予定と紙の記録が食い違って、「今日この人は通いなのか訪問なのか」が不明確になる。スタッフがその都度確認に来る。管理者が説明するために手を止める。
こうして「小さな確認」が積み重なって、管理者の集中力が分断されていきます。
改善策:Googleスプレッドシートで一元管理する
ホワイトボードの代わりに、Googleスプレッドシートで週間の利用予定表を作ります。通い・訪問・泊まりの区分、時間帯、担当スタッフをまとめて管理できるシートを一つ用意し、変更があれば全員がそこを見る、というルールにするだけです。
スマートフォンからも確認できるので、スタッフが現場で「今日の予定どうだっけ?」と思ったときに、事務所に戻らなくても確認できます。
もう一歩進めるなら、Googleカレンダーと連携させて利用者ごとのサービス予定を管理する方法もあります。変更があればカレンダーを更新するだけで、全員に反映されます。
「ホワイトボードを完全になくす必要はない」という声もよく聞きます。ホワイトボードは当日の朝礼で使う視覚的なツールとして残しつつ、正式な記録はスプレッドシートに一本化するという運用が、移行しやすく続けやすいです。
ムダ2:利用者情報の共有が「口頭」と「メモ」に頼りっきり
小多機は、登録利用者との関係が長期になることが多いです。通いで顔を合わせる頻度も高い。だからこそ、「スタッフのAさんがこの利用者さんの細かいことは全部把握している」という状態が自然と生まれます。
それ自体は悪いことではありません。問題は、Aさんが休んだとき、辞めたとき、です。
「お昼のご飯はあまり食べないけど、おやつのカステラは好物」「月曜の午後は娘さんから電話が来ることが多い」「浴槽に入るときに左手で手すりをつかむ癖がある」——こういった情報が、特定のスタッフの頭の中にしかない状態は、引き継ぎのたびに「抜け」が生まれるリスクをはらんでいます。
しかも小多機は、泊まりのスタッフと通いのスタッフが違うことも多い。昨日の泊まりでの様子を通いのスタッフに伝えるルートが、口頭や手書きメモだけだと、情報が届くかどうかが人によってばらつきます。
改善策:共有フォルダ+引き継ぎテンプレートを作る
Google DriveやMicrosoft OneDriveに「利用者フォルダ」を作り、そこに利用者ごとの情報ファイルを置きます。サービス内容、好みや癖、医療情報、家族の連絡先——まず最低限の項目を決めて、テンプレートを一つ作るところから始めてください。
引き継ぎ事項のテンプレートも用意しておくと効果的です。毎日の申し送りに使う書式を固定することで、「書く人によって内容がバラバラ」という問題が解消されます。
【日付・サービス区分】
【バイタル・体調】
【食事・水分摂取】
【排泄・入浴】
【本人の様子・特記事項】
【次のシフトへの申し送り】
このくらいシンプルな構成でも、項目が決まっているだけで共有の質はぐっと上がります。
情報が「人の頭の中」から「共有のファイル」に移ると、スタッフが変わっても利用者への対応の質が安定しやすくなります。管理者の目線からは、業務の属人化を防ぐための最初の一手です。
ムダ3:加算の取りこぼしを「なんとなく」防いでいる
小多機には、各種加算の算定要件があります。認知症加算、総合マネジメント体制強化加算、口腔衛生管理体制加算——要件を満たしているはずなのに、記録が不十分で算定できなかった、あるいは気づかないうちに要件を満たせていなかった、というケースが実際に起きています。
特に小多機は、通い・訪問・泊まりにまたがって記録を管理するため、「どこかには記録があるはず」という感覚で進んでしまい、いざ実地指導のタイミングになって記録の穴が発覚する、というパターンがあります。
加算の管理が「なんとなく大丈夫だろう」という感覚頼みになっている事業所は、少なくありません。
改善策:月次チェックリストを作る
算定している加算ごとに、毎月確認すべき要件をリスト化します。スプレッドシートで管理すると、月ごとの確認状況が一覧で見えるので便利です。
たとえば、認知症加算であれば「研修修了者の配置」「記録への反映」などの要件が確認項目になります。これを月初に一度チェックする習慣をつけるだけで、見落としは大幅に減ります。
また、処遇改善関連の加算は要件が複雑で、かつ改定のたびに内容が変わります。「今、自分の事業所がどの加算を取れているか」「取れていない加算があるとしたら何が足りないか」を定期的に棚卸しする機会を作ることが、収益の安定につながります。
加算管理はどうしても後回しになりやすいですが、取りこぼしの積み重ねは年間で見ると無視できない金額になります。チェックリストという「仕組み」を作っておけば、担当者が変わっても管理の質が維持できます。
小さな整理が、現場の余裕をつくる
ここで紹介した3つのムダは、どれも「大きなシステムを入れなければ解決できない」問題ではありません。
スケジュール管理をスプレッドシートに一本化する。引き継ぎのテンプレートを作る。加算のチェックリストを月次で使う。どれも、Googleアカウントと少しの設定時間があれば始められます。
小多機の現場は、サービスの柔軟さゆえに「ちょっとした工夫の積み重ね」が効きやすい環境です。一つ整理するたびに、管理者もスタッフも「確認のための手間」が減っていくのを感じられます。
業務の複雑さに押しつぶされる前に、「一番負担になっているムダはどれか」を一つ選んで、まず手を打つことが大切です。
まず加算の状況を整理したい方は、こちらの診断もご活用ください。