患者が増えると、どこかで必ず「ヌケ」が出る
在宅診療を始めたころは10人、15人と患者数が少ないうちはなんとかなっていた。訪問スケジュールも、どの患者にいつ行くかも、院長の頭の中に入っていた。
でも、患者が30人、50人を超えてくると話が変わってきます。
「Aさんの次の訪問、今週だっけ来週だっけ」「Bさんの処方が変わったけど、訪問看護ステーションに伝えたっけ」「CさんのDNARの方針、ドライバーも知ってるよな?」
こうした「抜け・もれ」が1件起きるだけで、患者本人へのリスクにつながりかねないのが在宅医療の怖いところです。事務スタッフが一人で対応を抱えていたり、スケジュール管理がホワイトボードと院長のメモに分散していたりすると、誰かが休んだときに機能不全に陥ります。
特殊なシステムを入れなくても、GoogleカレンダーとGoogleスプレッドシートの組み合わせで、この問題はかなりの部分を解決できます。この記事では、在宅クリニックの実務に合わせた具体的な設計を紹介します。
(1) Googleカレンダーで訪問スケジュールを一元管理する
なぜカレンダーか
手書きのスケジュール表やExcelのシートがよくある選択肢ですが、どちらも「更新した人だけ最新情報を持っている」という問題があります。誰かが手元の紙に書き込んでも、他のスタッフには伝わらない。
Googleカレンダーはクラウドで同期されるため、院長・医師・看護師・事務・ドライバーが全員同じ情報を見られます。訪問の追加や変更をすると、全員のカレンダーに即座に反映されます。
設計のポイント
カレンダーを役割ごとに分ける
患者の訪問スケジュールをひとつのカレンダーにまとめてしまうと、情報が多すぎて見づらくなります。以下のように分けるのが使いやすいです。
- 「訪問診療スケジュール」:全患者の訪問日時(院長・医師・看護師・事務が閲覧)
- 「ドライバー担当」:ドライバーが確認する移動ルート・時間(詳細な住所はここに)
- 「定期カンファレンス・ミーティング」:内部会議や連携先との打ち合わせ
予定の名前をルール化する
予定のタイトルは「患者名 + 内容」で統一します。例えば「田中○○ 訪問診療」「田中○○ 往診(発熱)」のように。緊急往診と定期訪問を区別できる命名規則があると、スケジュールを一覧したときに瞬時に状況が把握できます。
繰り返し設定をうまく使う
月2回の定期訪問など、パターンが決まっている予定は繰り返し設定にします。「毎月第2・第4木曜日の14:00」のように設定しておけば、都度入力する手間がなくなります。変更が生じたときだけ個別に修正すればいい。
色分けでひと目でわかるように
患者ごとに色を変えておくと、スケジュールをざっと見たときに誰の訪問かが直感的にわかります。5〜6色もあれば十分です。患者数が多い場合は、訪問エリアごとに色分けするほうが実用的です。
(2) 患者情報シートの構成
スプレッドシートを「患者台帳」として使う
電子カルテとは別に、スタッフ全員がすぐ参照できる「患者台帳」をGoogleスプレッドシートで持つことをおすすめします。電子カルテには詳細な診療記録が入っていますが、「今すぐ緊急連絡先を知りたい」「処方の最新状況を確認したい」という場面では、専用のシートのほうが格段に速い。
シートの構成例
1枚目:患者一覧シート
| 列名 | 内容 |
|---|---|
| 患者ID | 管理番号(フリガナ+通し番号など) |
| 氏名(フリガナ) | 検索しやすくするため |
| 生年月日・年齢 | |
| 住所 | 訪問先の住所(訪問前に確認) |
| 担当医・担当看護師 | |
| 訪問頻度 | 月2回・週1回など |
| 主病名 | |
| 緊急連絡先 | 家族名・続柄・電話番号 |
| かかりつけ薬局 | |
| 訪問看護ステーション | 連携先の名称・担当者名 |
| DNAR | あり/なし |
| 特記事項 | 宗教的配慮・アレルギーなど |
2枚目:処方一覧シート
処方内容の管理は別シートにします。患者IDで紐づけておくと、「この患者の現在の処方薬を一覧したい」というときにすぐ引けます。
処方が変更されたときは変更日・変更内容・変更理由を記録します。「いつから何が変わったか」が追えると、訪問看護ステーションへの情報提供も正確になります。
3枚目:連携先一覧シート
訪問看護ステーション・ケアマネ・調剤薬局などの連携先情報を一元管理します。担当者名・電話番号・FAX番号・メールアドレスをここに集約しておくと、「○○ステーションの担当者に電話したい」というときに名刺を探す手間がなくなります。
(3) 処方変更・状態変化の共有フロー
「言った・言わない」をなくす仕組み
在宅医療の連携でトラブルになりやすいのが、「処方が変わったことが訪問看護ステーションに伝わっていなかった」「往診で対応した内容をケアマネが知らなかった」といったケースです。
口頭や電話だけのやり取りでは、伝達ミスが起きやすい。記録に残らないので、後から確認もできません。
スプレッドシートに「変更履歴シート」を作る
患者台帳に「変更履歴」シートを1枚追加します。項目はシンプルで構いません。
| 列名 | 内容 |
|---|---|
| 日付 | |
| 患者名 | |
| 変更内容 | 処方変更・状態変化・方針変更など |
| 連絡が必要な連携先 | ○○ステーション、ケアマネ△△など |
| 連絡済み | ○/×/不要 |
| 対応者 | 誰が連絡したか |
院長や医師が変更履歴に入力したら、担当スタッフが連絡先に伝え、「連絡済み」を○にする。これだけで「あそこには伝えたっけ」という二重確認の手間と抜け漏れが格段に減ります。
共有ルールを先に決めておく
シートを作っても、更新するルールが曖昧だと使われなくなります。以下を事前に決めておくのがポイントです。
- 誰が入力するか:処方変更は院長が入力、状態変化は訪問看護師が入力、など役割を分ける
- いつ入力するか:訪問当日中に入力、遅くとも翌朝までに、など期限を決める
- 連絡方法の優先順位:急を要する場合は電話、そうでなければメール+履歴シートへの記録
ルールはシートの1行目か別シートに書いておくと、新しいスタッフが入ったときにも説明しやすくなります。
仕組みを作るのは一度だけでいい
「Googleカレンダーとスプレッドシートでそんなにうまくいくの?」と思う方もいるかもしれません。
実際のところ、ツールの問題より「どう使うかのルール」のほうが重要です。高機能なシステムを入れても、更新するルールがなければ情報は古くなっていく。逆に、シンプルなスプレッドシートでも、更新の仕組みがあれば機能します。
立ち上げにかかる時間は、シートの設計と最初の入力作業を含めて2〜3日程度です。一度作ってしまえば、その後は日々の更新だけで回り続けます。
特殊なITスキルは不要です。Googleアカウントがあれば、今日から始められます。
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